68.アーナンダ・マジック

信徒だった六か月の間に、私は十人以上の知り合いをオウムに紹介した。自分がそれほど熱心にオウムを信じているわけでもないのに、話をするとかなりの人が入会した。話を聞いて納得してというより、私を通じてオウムのエネルギーが友人・知人に影響を与えているような感じだった。なかには出張先の会社のトイレで出会った初対面の人が、ちょっとヨーガの話をしただけでそのまま一緒に道場へ行って入会したこともあった。
そういうわけで、ほとんどの友人にオウムの話をしていた私は、世田谷道場で師として支部活動をするようになったのに、新たに紹介できるような友人はいなかった。それでも誰かいないかと調べあげてみると、同級生が東京に出てきていることがわかり、なんとか連絡先をつきとめて電話をしてみた。

何年ぶりかで会って話してみると、友人はスナックに勤めていて、同棲している男性との間にトラブルが絶えないようすだった。話していると話題はすぐに彼に対する不満になり、修行や真理に関心を向けることは難しそうだった。
「どうやって宗教の話にもっていこうか…」
そう考えていた私は、ふと田舎の学校で隣の席にいた、彼女が恋いこがれていた男子生徒の顔を思い出した。そして、彼とアーナンダ師(井上嘉浩死刑囚)の雰囲気がとてもよく似ていることに気づいた。
そこでこう言った。
「あなたに会わせたい人がいるんだけど、一度会ってみない? その人は、もしかしたらあなたの人生を変えるかもしれない」
入会案内を得意としていた私が、自分の友人を他の師に会わせるということは、後にも先にもこのときだけだった。アーナンダ師と縁がありそうだとひらめいたことは正しかったようで、ほどなく彼女はアーナンダ師と会ってその場で入会した。
布施を集めることや入会案内において、アーナンダ師がずば抜けた結果を出すことはだれもが認めていたし、私が友人をアーナンダ師に紹介したのも彼の方が引っ張れると思ったからだ。しかし、私はアーナンダ師がまめに彼女の教化をしてくれるとはまったく思っていなかった。そんな地道なことを彼に期待する方が間違っているというものだ。入れるだけは入れてもらい、いずれは私が彼女を担当して、時間をかけて真理を理解してもらえればいいと思っていた。

そして、友人の入会から一か月もたたない頃、世田谷道場でアーナンダ師とすれ違った。
「Mさんね、一千万コース受けるよ」
そう言ってにやりと笑った。
私は「えっ!」と驚いた。
支部では全信徒にパーフェクトを受けるように勧めていたので、アーナンダ師が担当している信徒にイニシエーションの勧誘をしてお布施を集めるのは当然のことだ。だが、入ったばかりの友人が、いきなり一千万円のお布施をするというのは信じられなかった。
「百じゃなく千なの?」
「そうそう、Mさんさ、俺、絶対に持っていると思ったんだよ。やっぱり持ってたよー」
そう言うとアーナンダ師は「やったぜ」という、無邪気な笑顔を見せて走り去っていった。
私はため息をついた。友人が、修行についても法則についてもなに一つ理解していないことは明らかだった。「アーナンダ・マジック」とも言える、無意識に影響を与える彼の力(超能力、神通力)に動かされているだけなのだ。そして、持っている現金を布施してしまえば、アーナンダ師はそれまでのように彼女を気にかけることはないだろう。布施のできる信徒、人を紹介できる信徒を求めて、彼の関心が次々と移っていくことは誰の目にも明らかだった。そういうときのアーナンダ師は、無責任で軽薄で冷酷に見えたが、それは彼の人格の問題というより、彼の突出した「霊性」と関係していたように思う。強烈なクンダリニーのエネルギーによって高められ舞い上がった自我(エゴ)は、大地に残されている自分自身の暗い影に気づかない。神がかり的になればなるほど、多くの悪魔(影)を呼び出しているのに、彼の意識は光の側だけにいるので悪魔が自分だとは知りようもない。アーナンダ師はオウムの修行者の一つの典型だったと思う。

*「パーフェクト」とは「パーフェクト・サーヴェーション・イニシエーション(PSI)」のこと。信徒は、いつでも無制限に「パーフェクト」を受けられる一千万円のお布施コースか、一週間だけ受ける百万円コースのどちらかを受けるよう勧められた。



2015年07月22日

コメント

自分に付け替える 他人に付け替える

同じ金をもらうにしても、いきなり直接自分のものにするのと、まず他人のものにして管理してもらい、自分に分けてもらうのがあるとおもう。前者はすごく苦しいが、後者のが負担がない。自我が絡んでると思う。
  • | 2015-07-23 | 三橋 URL [ 編集 ]

No title

コメントの投稿が出来ません。何が問題でしょうか?
  • | 2015-07-23 | No name URL [ 編集 ]

Re: No title

> コメントの投稿が出来ません。何が問題でしょうか?

できていますよー
  • | 2015-07-23 | 元TD URL [ 編集 ]

アーナンダ師という人

”過去の投稿と内容が重複しています。”、”不正な投稿だと判断されました” と出て、コメント投稿出来ませんでした。

*コメント欄に、URL を含めた為のようです。お騒がせしました。
-----------------------------------------------------------------------------
確かに強い印象を残す方だったと思いますが、”無責任で軽薄で冷酷”、もうひとつ言えば、押しの強さですが、実はこれは彼と会うといつも感じていたことです。改めて言葉にしていただいて、その通りだと思いました。社会に出たことがないからかな、と当時は思っていましたが。。

今は支援者の方がついているらしいですが、彼の身の振り方には大いに違和感を持ちますね。彼の師時代の言動を知っている者からすると、本当に反省しているのかいなといった疑念を持ちます。受刑者に鞭打つようで申し訳ないが、彼から迷惑を被った方、大勢いるのではないかと思う次第です。皆、泣き寝入りでしょう。

事件当時、アーナンダ師の取り調べに当たった刑事さん方は、師という立場を中間管理職的に見て、同情している様子がありました。その気持ちも分からなくはないのですが、刑事さん方自体、あまりに型通りの見方というか、固定観念で教団の構造を解釈しようとしていた様子があったと思います。ニュースや特番などで、事件を知った方も同じのようでしたが。。今の支援者の方もそれと大差無いように思います。アーナンダ師の刑が確定した後ではあり、今更ではありますが、こうした記事がアップされることで、固定観念的な見方が取り除かれることを思っています。昨今の粉飾決済の話は、まさしく彼のお家芸だったのではないでしょうか。その意味では、まさにおんなじな訳ではあるのですが。。
  • | 2015-07-23 | 匿名 URL [ 編集 ]

米国 欧州

最近、思うことは宗教の影響がなければ 米国も 欧州も ロシアもここまで劇場的にならなかったと思うんですよね。
  • | 2015-07-23 | 三橋 URL [ 編集 ]
      

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する