53.極厳修行とバルド

一九九二年二月九日、アンダーグラウンド・サマディから出て私の極厳修行は終わった。
記録をたどって気がついたのだが、極厳修行の期間は偶然にも魂が死後経験する「バルド」と同じ四十九日だった。成就するまでの期間は人それぞれだったが、私の修行が四十九日間だったことはとても意味深く感じられる。

極厳修行では横になって眠ることなく、極端な小食か断食をしながら徐々に深い瞑想へ入っていき、サマディという肉体的な死の状態(呼吸停止)を目指す。つまり、瞑想修行とは死を経験すること、死後トレーニングとも言えるのだが、それは言うほどたやすいことではなかった。瞑想に入っていくと、最初は雑念の渦に巻き込まれて、一瞬気絶したようななにも覚えていない状態になる。やがて修行が進んでくると、非常にリアルな夢やヴィジョンを見るようになる。
「ヴィジョンは関係がない。一切とらわれるな」
教祖はそう言って、詞章に集中し続けることでヴィジョンの向こうにある「光」を体験するよう指導したが、潜在意識の強い欲望(煩悩)が作り出すリアルなヴィジョンに巻き込まれずにいることは難しかった。
教祖が極厳修行を「狂うか、解脱するか」と表現したことは決して大げさではない。ある中年の男性修行者は突然「頼むから独房に入れてくれ!」と叫んだ。性欲の煩悩に翻弄されて、同じ道場で修行している女性修行者に飛びかかりそうになったからだ。彼は修行を抜け出して家へ帰ってしまった。(再び修行に戻って来たが)
ある修行者は、修行場の小さなシンクに置かれていた手洗い用のレモン色の石鹸を長いことじっと見つめていた。後で「食の煩悩が出て、とにかくなんでもいいから食べたくて、本当に石鹸を食べるところだった…」と言っていた。
私も意識が分裂して気が狂いそうになった。

「東大三人組」と呼ばれていた若い男性のうち二人も修行に入っていた。厳しい受験戦争を勝ち抜いただけあって、たいへん優れた集中力で修行していたが、私は彼らが成就するのは難しいんじゃないか…と思っていた。私のすわっている場所からは彼らが修行している姿が見えて、「自分」というものを強く持って修行しているのがよくわかったからだ。自我意識が弱まらないと、深い瞑想に入って内的体験をすることは難しい。「我」が強かった私にはそれがよくわかった。もし、トラックごと海に落ちるという事故がなかったら、絶対に極厳修行に耐えられなかっただろう。事故は私という存在を大きく揺るがす出来事で、あのときのショックでエゴが弱まった状態で修行に入ったから、最初から苦もなく修行ができて体験が深まっていったのだと思う。それでもアンダーグラウンド・サマディではなにもできなかった。

最初四十人でスタートした極厳修行は、途中から修行に入ってくる人もかなりの数いて、総数は八十人くらいだっただろうか。そのなかから最終的に二十人ほどが「正師」と認定された。成就認定された人たちのなかには、同じ海に転落したガフヴァ・ラティーリヤ正師(当時・端本悟死刑囚)やイシディンナ正師(当時・林泰男死刑囚)もいた。極厳修行は一年近く続けられたが、成就認定される者が出なくなり修行は終わった。そして、これを最後に「狂うか、解脱するか」という極厳修行は行われなくなった。その後は、一九九四年に行われた「キリストのイニシエーション」で薬物(LSD)によって体験し、体験内容によって成就が認定され、多くの成就者が誕生した。
薬物によるイニシエーションは、オウムの「ヴァジラヤーナの時代」と時を同じくしている。

*松本麗華著『止まった時計』(講談社)には「父は自分が達成した『解脱』が、当初は弟子の誰もが達成できるものと信じていましたが、実際に指導してみると、思い通りの結果を出す者がおらず、だんだんあきらめていったのではないかという印象が、現在のわたしにはあります。解脱者がどんどん多くなって世界宗教となり、救済ができると真剣に考えていたのに、弟子の修行が思ったように進まず、人間はなかなか救われないという認識に変わっていったのではないかと。」
オウムの修行が、極限修行から、完全な他力であるPSI(パーフェクト・サーヴェーション・イニシエーション)、薬物イニシエーションへと変化していったことからも、このような可能性は考えられるように思う。その後、弟子の現状に合わせて方法を変えていったという印象がある。

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ご意見・ご感想、事実訂正などありましたら、よろしくお願いいたします。



2015年05月10日

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コメント

神秘体験

自分の本能と逆のことを自傷行為のようにやってくと どんどん研ぎ澄まされていくような気もします。 やりすぎて喘息になりかけました。
  • | 2015-05-11 | kj URL [ 編集 ]

No title

無事で何よりだけど、どこか身体の具合の悪いところとかはないの?
  • | 2015-05-11 | 元R師 URL [ 編集 ]

Re: 神秘体験

kjさん、コメントありがとうございます。そうそう。研ぎ澄まされていくんですが、修行から出れば鈍りますから、そこからが本当の・・・だったんでしょうね。
  • | 2015-05-12 | 元TD URL [ 編集 ]

Re: No title

元R師さん、「みんなでやろう」には賛成です。あそこであったことそのまんまの記録をしようと思っています。
で、ご心配いただいているのは、今のこと、それとも当時のことですか??
どちらにしても、なんとか生きています・・・ですが。。
  • | 2015-05-12 | 元TD URL [ 編集 ]

No title

だよね。

いや、情報は入って来ているんで、脳は大丈夫なのかなと思って。(笑)
  • | 2015-05-12 | 元R師 URL [ 編集 ]

Re: No title

脳ですか(苦笑)…まあ、文章が書けるくらいには。。
ところで、「44.チベットの誘惑」に、村岡さんから当時の様子がわかる貴重な資料がコメントされましたのでお知らせしますね。
  • | 2015-05-12 | 元TD URL [ 編集 ]

No title

それはよかった。
サマディに入ってもいないのに恍惚の人になってるんじゃないかと心配したからね。(笑)
  • | 2015-05-13 | 元R師 URL [ 編集 ]
      

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