51.地獄を見る

【三十三日目】眉間から光を発射した体験について質問する。
「アージュニャーから、そこからがまだまだ長いんだよ」というコメント。
今後の修行についてキサーゴータミー正悟師から発表があった。サマナの修行規定である立位礼拝六百時間がまだ終わっていない人は、残りをここで終わらせること。教学システム初級が終わっていない人は終わらせ、四つの秘儀瞑想をそれぞれ千回(各パートを千回の後に通しで千回)終わらせるようにとのこと。
今回の極厳修行でクンダリニー・ヨーガを成就した者は「正師」という称号で呼ばれるそうだ。霊的な体験だけでなく、これらの加行をすべて終わらせなければ、成就者と認められないということ。これが「アーナンダタイプで、煩悩捨断できている成就者」という意味なのだろう。立位礼拝は六〇〇時間に二八〇時間足りず、併行して秘儀瞑想も教学もやらなければならない。究境の瞑想をしているときが一番楽になっていたところに、高い山のような課題が突きつけられた。ちょうど「究境の瞑想に対するとらわれがある」とコメントされたところだった。とにかく淡々と目の前の課題に取り組むしかない。長い立位礼拝修行が始まる。

【四十二日目】立位礼拝十日目。あと少しで終わるのになぜか礼拝できず苦しい。こんなことならもうドロップアウトしようか…と、いつものようにゆれる思いが去来していた。
究竟の瞑想中、目を閉じると細かい黒い網点のようなものが見える。その網の向こうになにかヴィジョンのようなものが見えるので、なんだろうと思って網をくぐってみた。
黒い網のむこうは意外に明るく、そこで私は地獄の世界を俯瞰していた――。
身体のあちこちを切り裂かれ、もだえ苦しんでいるたくさんの人々、そのえぐれた傷からは血が流れ、真っ赤な傷口が細部までよく見える。その鮮明な赤い色が目に飛び込んできたので、明るいと感じたのかもしれない。私は終始上空から果てしなく広がる地獄世界を見ていた。
地獄は苦しみだけの世界というが、まさにそのとおりだった。苦しみと痛みの叫び、地獄の責め苦だけが続いている苦界。かつてそんな絵を見たから地獄のイメージが展開しているのだろうか? おそらく絵とは違って苦しみも痛みもビビッドにちがいない。そして、上空から見ていて感じられるのは、その世界のなんともいえないにおいだ。生臭いような表現できない嫌なにおいがしていた。でも、これまで他の修行者の地獄の体験でこのようなにおいにふれたものはなかったので、これについて質問した。
「においはあります。その体験は死生智(*)の智慧の一つであると同時に、きみが下向したときに行く世界だということです」というコメント。
立位礼拝の苦しさから下向意識にとらわれて、いつものようにゆれていたときだった。

【四十六日目】究竟の瞑想中、意識がすっと上昇して肉体から抜ける。
そして、抜けたところからすっと横に抜けていく。すると明るい世界が見えてきて、二人の男が旅をしている場面。一人は私だとわかる。何者かを追いかけているか、追われているかのどちらかのよう。季節は夏らしいが、時代、国籍ともわからない。
<以上、修行ノートからの抜粋>

結局、変化身の体験は、意識が肉体から抜けていく最初のところは認識できるのだが、肉体に意識が戻ってくるところは認識できなかった。
ダルドリーシッディは、立位礼拝の修行がはじまってから、自分では制御不能なほど激しいダルドリーが起きるようになった。立位礼拝をしていると強烈なエネルギーを感じるので、礼拝を中断して蓮華座をきつく組んでその場にすわらずにはいられない。するとエネルギーが爆発するように身体が激しくゴムまりのように飛び跳ねるようになった。それから瞑想をしている最中にふっと浮き上がるようなダルドリーシッディが起きるようになると、激しく床に身体を打ちつけて飛び跳ねることはなくなった。
「瞑想中に経験するダルドリーシッディが本当の空中浮揚の前段階だ」というコメント。
そして、いくつかの光への没入――。
私は加行をすべて終え、クンダリニー・ヨーガの四つの体験もほぼ終えて、最後に四日間のアンダーグラウンド・サマディに入ることになった。

アンダーグラウンド・サマディは、地中に埋められたステンレス製のチェンバー(小部屋)のなかで一人瞑想するというもので、完全密閉されたチェンバーは、修行者が四日間でどれほど酸素を消費するか外部からモニターされていた。煩悩があると呼吸の回数が増えて酸素を多く消費してしまう。理想は、瞑想中にサマディに入り呼吸停止の状態になることで、それが解脱の証明だとされていた。

(*)死生智とは仏教で認める六つの神通のうちの一つ。原始仏典では「天眼通」を「その魂が『死』んだ後来世どのような世界に転『生』するかを知る神通力」と説明していたので、オウムでは「天眼通」に「死生智」という訳語を当ていた。 六神通とは「神足通」「天耳通」「天眼通」「他心通」「宿命通」「漏尽通」。



2015年05月06日

コメント

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  • | 2015-05-16 |   [ 編集 ]

Re: No title

訳語と意味について、ご指摘ありがとうございます。
間違いを訂正いたしました。今後ともお気づきの点などありましたら、よろしくお願いいたします。
  • | 2015-05-17 | 元TD URL [ 編集 ]
      

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