32.夢見の変化

もともとほとんど夢を見なかった私が、修行をするにつれ鮮明な夢を見るようになった。
出家してすぐに見た夢は、あまりに意外なものだったのでよく覚えている。富士の二階道場の祭壇の前で仰向けになって寝ていると、男性サマナのAさんが、ひゅうと飛んできて私に覆い被さった。そこで目が覚めた。
「えっ? 破戒?」
リアルな性的な夢ではないにしても状況からすると「性欲の破戒」のようだった。出家修行者は禁欲が課せられていて、まだ出家して間もない私は「こんな夢を見るなんて」と反省するべきところだが、それにしても「なぜAさん?」と不思議だった。好みのタイプでもなく、同じ部署で接することが多いわけでもない。普段ほとんど関わりのない相手で、しかも総本部道場の祭壇の前で。
もしこのとき私が、後に学んだ夢やヴィジョンの解読方法を知っていたら、これは性欲の夢でもなんでもなく、私が修行の新しい段階へ入ったことを理解できただろう。

その数日後、夢とも現実ともつかない不可思議な体験をした。
私は眠っていた。というよりも、眠っている自分を意識しながら眠っていた。すると暗い意識の空間の真ん中より少し上方に、ピリッと小さな裂け目ができたかと思うと、そこから一筋の光が漏れてきた。裂け目はビリビリッとさらに大きく引き裂かれ、二人の人物がいきなりどどっと飛び込んできたのだ。
教祖、そしてもう一人は三女アーチャリー正大師だった。
「お前の引っかかりはここだ!」
そう叫んだ教祖は、私の胸の真ん中、アナハタ・チャクラの位置に右手をグイグイと強く押しつけた。
そこで私は目を覚ました。
「いったい、これはなんなんだ…」
私の夢に現実の教祖と三女が、夢を引き裂いて飛び込んできた。
いやこう言ったほうがぴったりくる。
「教祖と三女は、他人の夢に自在に侵入できる超能力を持っていて、私の夢に入ってきた」と。
この出来事には続きがある。目覚めた私は、「不思議なことがあるものだ」とショックを受けていた。そして一階のトイレへ入り、出てきたらドアの前になぜか三女が立っていた。三女はにこりともしない硬い表情で、いきなり私の胸の真ん中をバーンとたたいて走り去っていった。それは夢のなかで教祖がたたいたのと同じところだった。
「えっ!…」
息をのんだまま、私はしばらくそこから動けなかった。

この出来事をどう理解したらいいのだろうか。
教祖と三女は「すごい人」だといわれていたから、夢に侵入できる超能力を持っていると考えるのが、サマナなら普通かもしれない。しかし、私はそうは思わなかった。
「あなたがたは昨夜、私の夢に侵入してきたでしょう?」
教祖と三女のところへ行ってそう聞いたとしても、おそらく当の本人はなにも知らないだろうと思ったからだ。
では、私の夢を引き裂いて侵入してきた、あの現実のような教祖と三女はなんなのか。そして、なぜ翌日現実に三女がトイレのドアの前で待っていたのか…。
現実と夢をどのように結びつけたらいいのかわからなかった。でも、夢の人物がどれほど現実の人物そのままに見えようとも、夢と現実を直接結びつけるのは「違う!」と、私の直感は告げていた。
それでもオウムという場所で、現実とは違うなにかが起こっていることは確かなようだった。



2015年03月28日

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