12.AUMと宇宙

道場では、見慣れない梵字「オウム字」(AUM)が目についた。
この梵字は教団のマークとして使われ、道場のドア、パンフレット、機関誌、音楽テープ、チラシには必ずどこかに濃い紫色でプリントされていた。
「AUM」というのは、アウム、アウン、オーン、オン、オウムなどと発音され、宇宙の創造・維持・破壊をあらわしている。インドへ行けばだれでも唱えているマントラ(真言)、宗教的な呪文だ。

創造神の名は、ブラフマン。
維持神の名は、ヴィシュヌ。
破壊神の名は、シヴァ。

創造・維持・破壊は、生まれること、生きること、そして死でもある。
いくつもの宇宙が果てしなくこのサイクルを繰り返している。
私たちもまた、生じては滅し、生じては滅しているはかなく無常な存在である――これがオウムの世界観の根幹にあり、無常なるがゆえに生じる苦しみを超えることが、オウムの修行の目的「解脱・悟り」だった。
こんな宗教的な意味は知らなくても、お寺の参道の左右両側にいる狛犬はだれでも知っているだろう。向かって右側が口を開けた「阿(あ)」、左側が口を閉じた「吽(ん)」。この身近な一対の狛犬もまた「AUM」をあらわしている。
集会や説法の始まりと終わりには、全員で必ずオウムマントラを三唱した。

入信案内のときにもらったパンフレットの表紙には、「“聖なる道”それは光を超える」と書かれていた。なかを開くと「真実はひとつ、宇宙創成のプロセス」という、入信案内にしてはとても長い文章が掲載されている。
結論を要約すると、「この宇宙は熱・音・光という三つのエネルギーで形成されており、ビッグ・バン以来、宇宙は拡張し冷え続けている。解脱とは、このプロセスを逆にたどるもので、拡張し冷え続ける宇宙を再び暖め、収縮させ、音の世界にもどし、光の世界にもどし、ついには、消滅させる。それがシヴァ神(破壊を司る最高神)の意思だ」というものだった。
ヨーガの「解脱」が、現代のビック・バン理論で説明できるという斬新な解説だったので、長くて難しい文章にもかかわらず、多くの信徒の心をとらえた。
これを読んだとき私は、「オウムってすごいのかも…」と思った。
古いヨーガの智慧が最新の宇宙論を装うとき、驚くほど魅力的になっていた。


2015年03月04日

コメント

      

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する