13.ヒヒイロカネとプルシャ

入会すると、四、五センチ四方の紫色の木綿のきんちゃく袋を千円のお布施で手に入れる。そこに「ヒヒイロカネ」と呼ばれる小石を入れて、首から下げて胸の位置につけておくのが最初のイニシエーションだった。オウムで頻繁に使われるイニシエーションという言葉は、エンパワーメント(エネルギー移入)のことだ。
ヒヒイロカネは一見その辺にころがっている小石のようで、色は墨をぬったように黒く、手のひらにのせると見かけよりも重い。なめらかな石の表面にふれるとひんやりとしていた。ヒヒイロカネはエネルギーを込められる霊的な石で、酒井勝軍という神秘家が岩手県五葉山で発見したものを教祖が再発見したという。信徒が一、二週間胸につけて邪気を吸収したヒヒイロカネは、新しいものと自由に交換してもらえた。
「ヒヒイロカネを交換してもらえますか」
信徒が頼むと、修法済みのヒヒイロカネがゴロゴロ入ってる青いポリバケツを道場サマナが持ち出してくる。オウムはエネルギーには敏感だが、聖なる石をどんなものに入れておくかについては無頓着だった。
「どれにしますか?」
「デカイやつがいいな」
バケツをのぞきこむようにして信徒が選んだのは、きんちゃく袋にやっと入る大きなものだった。こんな石を首から下げれば、胸の部分がぽっこり盛り上がって不自然だが、エネルギーに敏感なタイプの信徒は、見かけにまったく頓着しなかった。

この頃、土日を利用して修行する「超能力セミナー」があった。夜十一時から朝五時までの六時間ぶっ通しの徹夜修行だと聞くとだれもが躊躇するのだが、
「超能力セミナーに出ると、甘露水で炊いたお弁当と、プルシャがもらえるんですよ」
そうすすめられると信徒は喜んで参加した。
甘露水もプルシャもエネルギーが込められているので魅力的だったのだ。
超能力セミナーは、第一回から十四回まで毎回メニューが変わり、秘儀瞑想やマントラ、プルシャが伝授された。
“プルシャ”というのは、オウムで手作りしたセラミック製のバッジだ。ちなみに坂本弁護士事件の現場に落ちていたのは、この超能力セミナーでもらえるプルシャだった。事件現場にオウムのバッジだなんて、あまりにも見え透いていたので、当時はオウムを陥れるための工作だろうと思っていた。真相は、犯人の一人中川さん(中川智正死刑囚)が、犯行時に落としたものだった。彼は信徒時代に超能力セミナーに出て、プルシャをもらったのだろう。バッジの留め金部分は粗雑な作りで外れやすく、とても犯行現場につけていくようなものではない。しかし、彼は出家してからも肌身離さずつけていて、そのまま弁護士宅にも行った。プルシャは大切なイニシエーションだったからだ。


2015年03月05日

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