100.脱会して

脱会届けを出せばそれでオウムから脱却できるわけではない。
「オウムが過去になるまでに、最低でも十年はかかるだろうなぁ」
なにかとても重たい荷物を背負っているような感じがした。オウムをやめて新たな宗教や指導者や修行の場を求める人も多いが、私はまったくそんな気にはなれなかった。
「人まで殺した宗教にいて、なぜそんなことになったかわからないままなんて」
私はオウムという出来事をどうしても理解したかった。私たちは厳しい修行をして自己を超えることで、輝かしい未来へ向かっていると思っていたのだ。それなのに、どうして…。

生活費を稼ぎながら、それ以外の時間はすべて「オウムとはなんだったのか」という追究に費やした。教団を離れてもなんとか生活はしていけたが、数年前から悩まされていた子宮筋腫によるひどい貧血が悪化していった。血中のヘモグロビン値が通常の三分の一もない状態が長く続いて、しだいに起き上がっているのも辛くなり、近所のスーパーマーケットまで歩くのもままならなくなった。半年に一度、知り合いの医者に血液検査をしてもらいに行っていたが、「自分ならすぐに入院させて輸血して手術する」と言われた。
修行上の問題で、輸血や手術を避けたかった私は、決断がつかないまま投薬で対処していたが、活力がなくなり、気力がなくなっていくのがはっきりとわかった。昏々といくらでも眠ることができた。こうして生命エネルギーが極端に低下していくなかで、とても印象的な夢を見た。
その夢は、これまで見たどんなヴィジョンとも夢とも違うものだった。

******

私は北のホテルにいる。
あたりは少し暗い。
三人の後輩の女性修行者が一人ずつ訪ねてきてロビーで雑談する。

部屋に戻った私は、置いてあった寝椅子に横になる。
すると、三人の尊敬する男性修行者が部屋に入ってくる。
私が横になっている寝椅子の頭と足と中央を三人で持ち、
寝椅子ごと私を頭上に捧げ上げた。
そのとき、頭上で荘厳なバロック音楽が鳴り響いた。

部屋に大きな窓があって、ガラスごしに深い色の湖が見えていた。
湖にはサルベージ船が浮かんでいて、ダッ、ダッ、ダッ、ダッという船の大きなエンジン音が聞こえていた。
今まさに、冷たく暗い湖の底からなにかが引き上げられようとしている。
古い厚手の帆布に何重にも包まれた巨大な球体が、ユラユラと水中にあらわれた。
ザザーーッという水音とともに
ずっしりとした球体は水面から引き上げられ、止まった。

球体は神聖なエネルギーを発してまるで生きているようだった。
十文字にロープがかけられていて、そのロープのちょうど真ん中に一冊のノートがはさまれていた。
上から光が射してきて、ノートの表紙に書かれた文字を照らし出した。
そこには慣れた手書きの文字で「失われた少女の物語」と記されていた。

******

「失われた少女の物語?」
目が覚めて思わずつぶやいた。
意味はまったくわからなかった。だが、見えない大きな重荷を下ろしたような、すべての緊張が解けたような解放感が私を包んでいた。なにかが起きたようだったが、なにが起きたのかはわからなかった。
二日、そして数日経っても心の解放感、広がりは変わらなかった。しばらくしても同じだった。どうやら私は変わったようだった。どこが、なにがといわれると困るのだが、なにかが決定的に変わっていた。変わるというのは劇的なことだろうと思っていたが、変化は私の知らないところで自然に起きたようだ。
しばらくぶりに会った人から「性格がまあるくなった?」と言われた。
「そうかもね」
私は笑って答えた。

夢には深く人を癒す力があることを体験した私は、夢とヴィジョンの研究に没頭した。それは象徴言語を理解していくことだった。あらわれている記号やイメージから全体のメッセージを感じとるのだ。研究していくうちに、オウムとはなんだったのかということも、象徴言語を読み解くことで、わかることがあるのではないかと思った。象徴を読み解くためには、日常の意識で考えるのではなく、ぼんやりとした薄明かりのなかで全体のイメージをとらえる、というようなことが必要だった。それは本当に雲をつかむような話で、オウムを辞めた友人に研究の話をしてもほとんど理解されなかった。でも、オウムという現象にあらわれている象徴を読み解くことで、なにか意味があらわれてくるのではないか、という直観があった。


2015年10月22日

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コメント

続報に期待します

(本文の内容とはあまり関係ないですけれども)オウムを辞めても、親身になってくれるお医者さまがいたり、話のできる友人がいたりと人間関係には恵まれていらっしゃいますね。これもそれまでの活動による徳の表れと考えるべきでしょうか。その辺の消息も書いていただけるとありがたいです。

ご病気とのこと、どうぞご自愛ください。何も出来ませんが、一時期行き来のあった者として心配しております。

夢とヴィジョンの研究というのは、ご自身の体験と照合するのだと思いますが、それで果たして確信につながるでしょうか。やはり、師匠、グルのような存在による承認が必要になってくるのではないでしょうか。「オウムという出来事を理解する」ということについても同様に思います。ちょっと先走って書いてしまったかもしれません。これで失礼します。

  • | 2015-10-23 | 匿名 URL [ 編集 ]

No title

子宮筋腫かあ、大変だなあ。

変化は起こっているけど、言語としては理解できていないように思えるんだけど。
その辺はどうなの?
  • | 2015-10-23 | 元R師 URL [ 編集 ]
      

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